三浦折り

カラスネットは小さくても2×3mの6平米、大きいサイズは3×4mの12平米。ポリエチレンの漁網で、きちんと折り畳める素材ではない。自治体にもメーカーにも畳める工夫を、保存できる箱をなどと進言しながら、お返事はいいのですが、それっきりでなんら埒があくはずもなく、自分でも試作をはじめていた。
 
手に入れられる製品は取り寄せ、台東区の漁網屋さんでは立体的に縫製してもらったり、また近隣の市も含めて街角の散乱したカラスネットの写真を撮りまくり、まるで下着が脱ぎ捨てられているように思った。家族に説明しても、そんなの(放置されたカラスネットなど)目に入らないよと言われ、しかしその光景が見えてしまった自分、その無残さに出会ってしまった自分をどこかに放り投げ出すわけにはいかなくなった。

またその膨大さは仕事になると思い、「日本の街角を美しく!」をテーマに、できっこないよと言われつつも、自治体相手ゆえ自分ひとりだけの法人を立ち上げた(1998年9月)。

そんなある日、宇宙で一瞬に広げられる 巨大な太陽電池ソーラーパネルの「三浦折り」を思い出した。一瞬に折り畳めて一瞬に開く。重力のない宇宙だからこそ可能な操作なのかもしれないが、考案者の東大宇宙研の三浦公亮教授にお電話してみた。

その頃すでにインターネット検索は、私には無くてはならないものになっていた。退官なさっていて、滋賀県の大学に移っておられた。優れた才能の方ほど、とても気さくなお人柄なので、こういう事に私は物怖じしない。やはり温かいお声で、パネルではなく、やわらかい網状では難しいのではないかと。でもやってごらんなさいと、許可をいただいた。

折紙では山折・谷折というが、直線を裏表交互にミシンをかけて屏風のように折り畳めるようにして、山折の上に繋げたロープを引いて、丸めて収納するという「クルクルネット(商標名)」を完成させた。素材はペットボトル100%の再生樹脂でできたネットを見つけていた。ポリエチレン製のものより固くてシャリ感があり、ロープで引き寄せるのに都合よく、エコロジーの時代にも合っていた。

図面は夫に描いてもらい、明細書の文章はワードで打ち込み、 実用新案に出願した。こういうのは得意なのである。特許庁からは、登録までに一ヶ所の修正指導があった。「屏風のように」という表現は適切でなく、具体的に説明すべきという内容であった。